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幸せの下拵え

官能的な都市とは。

次に住みたい街はどこですか。

新たな指標、“官能的な都市”とは。

先日、東京で聞いた特別講演が面白かったので、備忘録として。

 

特別講演「センシュアス・シティ ―本当の都市の魅力を測る新しいものさし―」

島原万丈(しまはらまんじょう)

住宅市場の調査研究に従事し、2014年「ストック&リノベーション」、2015年「センシュアス・シティ」等のレポートを発表。「センシュアス・シティ」は再構成され、新書「本当に住んで幸せな街」として出版された。

均質化していく都市

武蔵小山に「りゅえる」という若者でにぎわう飲み屋街がある。地元の人には「暗黒街」とも呼ばれ、親しまれてきたこの飲み屋街が再開発事業により、タワーマンション街になる。「再開発」で検索すると、似たような高層ビルの画像が出てくる。均質化していく都市、消えゆく街のダークサイド。どこに行っても似たような街。街の魅力とは何か。

ル・コルビジェが提案した、「垂直田園都市」という構想がある。日本では森ビルが例に挙げられることが多い。この構想の特徴は、大きな街区、職住分離したゾーニング、直線的な歩車分離道路である。ビルを高層化し、広い公開空地、道路を確保することにより、光をより多く取り込むことができるため、この構想は「輝く都市」とも呼ばれた。

コルビジェはこの構想をパリ向けに翻案し、「ヴォアザン計画」として、パリ万博にて発表した。“ヴォアザン”というのは、この計画・模型が自動車メーカーのヴォアザン社の出資によるためであるが、何故ヴォアザン社だったのかというと、この計画が車中心の構想であるからだ。

結局、パリはこの提案を採用しなかったが、この提案を採用した国がある。日本だ。再開発事業のフォーマットはまさにこの垂直田園都市、ヴォアザン計画に倣ったものである。

再開発事業は、公開空地の確保など公共的な貢献を行う建築計画に対して、容積率などの建築基準法に定める形態規制を緩和するものである。つまり、歩行者空間や公園整備のための公開空地を確保すれば、高層ビルを建てることができるのである。 

先程も述べたように、垂直田園都市、ヴォアザン計画は車中心の計画である。道路は車が走りやすいよう整備されるため、一区間が長く、信号の少ない直線的な道路となり、歩道はそれに付随するだけの、歩行者にとっては退屈な道となる。

また、広く取られた公開空地にはベンチもなく、植栽だけが植えられている。スペース、水道、電気もないため、イベントを行うこともできない。豪華なエントランスになってしまっている。何のための公開空地なのか。

そして、飲食店の案内看板を見ても、チェーン店ばかりである。どこの街に行ってもそうだ。コンテンツもまた、均質化しているのである。

都市の魅力とは

さて、私たちは都市の魅力をどのように測ってきたか。

東洋経済新報社が出版している「住みよさランキング」がある。(千葉県印西市が6年連続1位)この住みよさランキングがどのように決まられているかというと、「人口当たりの病院病床数・店舗面積・都市公園面積、世帯あたりの新設住宅着工戸数、1住宅あたりの住宅延べ床面積」といった指標で評価、ランキング付けされている。

これらの指標から、建物・施設が、より多く、より大きく、より新しいことが、住みよさにつながると評価されていることが分かる。

しかし、これからの時代を牽引していくと考えられているクリエイティブ・クラス(※)にとって、こういった箱物は、無意味でつまらないものであり、求めているのは、質の高い快適さや経験、寛容性、そしてアイデンティを発揮できる機会である。

(※)経済学者・社会科学者であるリチャード・フロリダによって定義づけられた社会経済学上の階級。リチャード・フロリダによれば、世界経済は「クリエイティブ・クラス」と呼ばれる新しい価値観を共有する人材(創造的・知的職業を担う人たち)がリードする、クリエイティブ経済の段階に入ったという。クリエイティブ・クラスが魅力ある都市に集まり、そこで創造活動を繰り返すことで地域が活性化される。すでにクリエイティブ・クラスの人材の世界的な争奪戦が始まっているとも考えられている。

そこで、クリエイティブ・クラスが求めているような“都市の本当の魅力”を可視化する新しい物差しが必要だと考えたのが本調査のきっかけである。では、都市の魅力という定性的なものをどのように評価するか。

センシュアス・シティ -都市の魅力評価する新しい物差し-

都市デザイン、公共空間再生の第一人者である、世界的都市デザイナー ヤン・ゲール氏は、アクティビティは感覚器官や運動器官と密接に結びついており、都市はアクティビティ、空間、建築の順にプランニングすることが大切だと述べている。つまり、まず誘発したいアクティビティを考え、次に、それが行われる空間を考え、そして、それを実現する建築をつくる、この順序で考えることが大切である、と。

 

そこで、都市をアクティビティ、すなわち、「動詞」を指標として評価したのが本調査である。

しかし、どういったアクティビティが誘発される都市が、都市生活者にとって魅力的な都市であるのか。この問題を考えるならば、「人が都市に生活する」ということはどういうことか、その意義を考えなければならない。

「都市に生きている」の意味は、次の2点に集約される。
・不特定多数の他者との関係性の中に生きる。
・身体で経験し五感を通して知覚する。
この「関係性」と「身体性」を、「都市生活」の2つの基本的な意味として設定する。そのうえで、その要件が豊かに経験できる都市こそが魅力的な都市である、というステートメントを今回の調査のテーマにした。

 

「関係性」と「身体性」、この2つの要件を判断する具体的な行動をそれぞれ4つの観点から各4項目、計32項目設定した。下記の32項目に対して、住んでいる地域で過去1年間に、どの程度の頻度で経験したかを調査した。

「関係性」

①共同体に帰属している

●お寺や神社にお参りをした
● 馴染みの飲み屋で店主や常連客と盛り上がった
● 買い物途中で店の人や他の客と会話を楽しんだ
● 地域のボランティアやチャリティに参加した

②匿名性がある

●カフェやバーで 1人自分だけの時間を楽しんだ
● 平日の昼間から外で酒を飲んだ
● 夜の盛り場でハメを外して遊んだ
● 不倫のデートをした

③ロマンスがある

●デートをした
● ナンパした/された
● 路上でキスした
● 素敵な異性に見とれた

④機会がある

●刺激的で面白い人達が集まるイベント、パーティに参加した
● ためになるイベントやセミナー・市民講座に参加した
● コンサート、クラブ、演劇、美術館などのイベントで興奮・感動した
● 友人・知人のネットワークで仕事を紹介された・紹介した

「身体性」

①食文化が豊か

●庶民的な店でうまい料理やお酒を楽しんだ
● 地元でとれる食材を使った料理を食べた
● 地酒、地ビールなど地元で作られる酒を飲んだ
ミシュラン食べログの評価の高いレストランで食事した

②街を感じる

● 街の風景をゆっくり眺めた
● 公園や路上で演奏やパフォーマンスしている人を見た
● 活気ある街の喧騒を心地よく感じた
● 商店街や飲食店から美味しそうな匂いが漂ってきた

③自然を感じる

●木陰で心地よい風を感じた
● 公園や水辺で緑や水に直接ふれた
● 美しい青空や朝焼け・夕焼けを見た
● 空気が美味しくて深呼吸した

④歩ける

●通りで遊ぶ子供たちの声を聞いた
● 外で思い切り身体を動かして汗をかいた
● 家族と手を繋いで歩いた
● 遠回り、寄り道していつもは歩かない道を歩いた

センシュアス・シティ・ランキング

総合ランキングは、1位東京都文京区、2位大阪区北区、3位武蔵野市

(具体的なデータ、グラフはこちら。https://www.homes.co.jp/souken/report/201509/

 東京のトップ4(文京区、目黒区、武蔵野市台東区)の特徴は、全体的に8つのカテゴリーのバランスがよく、特徴的な強みがある。文京区は共同体への帰属、歩けるといった数値が高い。坂が多く、歩くという経験が圧倒に多いのかもしれない。

 (中略:気が向いたら追記する、かも)

センシュアス・シティとは、どんなまちか?

アンケートでは、アクティビティ(動詞)だけでなく、幸福実感度、居住満足度についても調査を行った。幸福実感度や居住満足度とセンシュアス度の相関係数は0.4以上であり、相関があることがわかった。ちなみに、週刊東洋経済「住みよさランキング」総合偏差値と幸福実感度や居住満足度との相関係数は-0.01以下であった。

 

また、アンケートでは、名詞、形容詞についても調査を行った。

(中略)

形容詞の調査では、センシュアス・シティ(ランキング上位25%の都市)は「多様な人が住んでいる」「外国人がたくさん住んでいる」と回答している割合が他に比べ高く、多様性に富んでいることが分かる。

形容詞の調査では、センシュアス・シティ(ランキング上位25%の都市)は「多様な人が住んでいる」「外国人がたくさん住んでいる」と回答している割合が他に比べ高く、多様性に富んでいることが分かる。

 

世界的に高く評価され、都市論のバイブルとも言われる「アメリカ大都市の生と死」の中で、ジェイン・ジェイコブスは、都市の多様性が、都市の安全、街路空間の賑わい創出、活力ある経済活動、魅力的な都市生活にとって重要な要件とし、都市の多様性を生み出す 4 原則を提示している。それが、「混在一次用途」「小さな街区」「新旧建物の混在」「人の密集」である。

実際に、アンケート調査結果では、「小さな街区」を除く3つの項目で、センシュアス・シティが大きく差をつけていることがわかる。

(中略)

「センシュアス・シティ」とは、多様性があり、五感に働きかけ、豊かなアクティビティを誘発する都市である。この考え方は、再開発事業を一概に否定しているのではない。しかし、こういったヒューマン・スケールのリアルな指標で都市を見ることも、これからの魅力ある都市を創出するうえで重要なのではないでしょうか。

 

センシュアス・シティ

https://www.homes.co.jp/souken/report/201509/